2002年度 障害児教育実践記録

障害を持つ人たちの進路と将来を見通した進路学習
-障害者理解と作業所施設見学-

奈良市立登美ヶ丘中学校
みさわ学級 上嶋 光春


       1 はじめに

       本校では、3年生の道徳の時間に障害者理解として障害をもつ人たちの進路について学習している。その教材として、みさわ学級の卒業生が働いている植村牧場の映画「小さな町の牧童たち」(1992年アズマックス作品)のビデオを視聴した後、障害児学級担任25年間に多くの卒業生を送り出してきた経験をまとめた自主教材を活用した。また、通常学級の生徒だけでなく、障害児学級生徒本人にも、ただ単に高等部に進学させるだけでなく、高等部卒業後の将来を見通した進路の取り組みが大切であると考えて作業所や施設見学を計画的に実施した。以下はその実践報告である。


       
      2 取り組み

       (1)通常学級での取り組み
        7月 3年道徳 障害者理解   障害者の進路について
            植村牧場 ビデオ 「小さな町の牧童たち」(50分)図1
            自主教材 「障害を持つ人たちの進路について」資料1

       
         

      3年道徳 障害を持つ人たちの進路について
                                      <資料1>

       前回見た、障害を持つ人たちが働く植村牧場のビデオ「小さな町の牧童たち」はどうでしたか。あのビデオのM君は登美ヶ丘中学校のみさわ学級の卒業生で現在も牛乳をつくる仕事を続けてがんばっているとてもうまくいっている例です。しかし、障害をもつ人たちの進路は、たいへん困難になっています。現在の不景気ではなおさらです。一番先に首をきられるのは障害をもつ人たちです。
       25年間障害児学級を担任してきて今までに卒業生を約20人ぐらいおくりだしましたが、そのほとんどが西の京養護学校の高等部や田原本にある高等養護学校に進学しました。そこを卒業すると、たいへんきびしい進路がまっています。どこにもいくところがない。就職先がない。現在どこにもいけずにずっと家にいる卒業生が4人(20%)。作業所や授産所などにいっている卒業生が半分以上の12人(60%)です。その作業所もお母さん方が力をあわせてつくってこられたものです。(右の作業所の地図を参照)企業に就職している卒業生が4人(20%)。そのうち、このビデオの例のように、就職してずっとつづいているのは2人(10%)だけです。高等養護学校を卒業するとほとんど就職しますが、1年間は国から給料の補助がでるので雇とってもらえるけれど、それがきれると1年でやめさせられたというのが多いです。その後は、在宅になったり、作業所や授産所に行くことになります。そのために、作業所や授産所に行っている例が一番多くなっているのです。障害者雇用促進法という法律があって企業は従業員の1.8パーセント(56人の従業員がいたら1人)は障害者を雇用しなければならないという法律なんですが、それを達成している企業がひじょうに少ないです。(2001年の未達成企業は56%)このように、まだまだ、障害をもつ人たちの進路はきびしいものがあります。障害を持つ人たちが働くためには、周りの理解がとても大切です。まず、雇う側の社長さんや企業の理解が大切ですが、さらに、職場で働く仲間の理解がとても大切なのです。ずっと続いている例は、本人の努力もありますが、ほとんどが、そういう理解者にめぐまれている職場なのです。
       きみたちが、将来就職した時、障害を持つ人たちが働くている場合もあるかもしれません。その時に、道徳でならったことを思い出して欲しいとおもいます。さらに、障害のある人たちが社会のなかで生きていきやすい社会を、だれかがしてくれるのではなく、私たちがつくっていっていくのだという意識を持って欲しいと思います。



          奈良市内にある作業所や授産所 
        1 社会福祉法人        10 社会福祉法人
          青葉仁の会           わたぼうしの会
          あおはにの家          たんぽぽの家
        2 社会福祉法人        11 ピアステーションゆう
          ならやま会         12 奈良市手をつなぐ親の会
          いずみ園、わかくさ園      リサイクル事業所
        3 かすが共同作業所      13 社会福祉法人
        4 野の花舎            奈良社会福祉院
        5 のぞみの家共同作業所      働く広場高円
        6 奈良市心身障害者福祉作業所 14 さわやぎ共同作業所
        7 スクラム福祉作業所     15 ユーカリの家福祉作業所
        8 こまどり福祉作業所     16 かかしの家
        9 麦塾福祉作業所        (1999年カレンダーより)



        


      <指導の留意点と補足>
       障害を持つ人たちの働く場として、作業所や授産所が増えてきている例を、資料との比較で3年前は16だったのが現在は26ケ所になっていることを紹介して下さい。しかし、本来は、作業所等が増えなくても雇用促進法を守られて、一般企業で一緒に働ける社会にならないといけないことをおさえて下さい。現在、雇傭促進法を守っていない企業は、納付金をはらっている。
      例 障害者雇用促進法は民間企業に従業員の1.8%以上の障害者雇用を義務付け、達成できない場合は不足1人当たり月5万円を支払うよう規定しているが、ある航空会社は、雇用率が今年6月現在で1.29%で、98年度に約4,620万円を労働大臣に支払った。

       なを、 作業所については、一覧表で、近くにもたくさんできているのを紹介して下さい。 また、新聞の切り抜きの記事(紙すき)や、こまどり作業所等のふきんの例などを参考にして下さい。

      作業所  小規模  例麦塾作業所など
       クッキー作りや内職の軽作業などをして、給料は月5000円。逆に運営費を家からだしているところが多い。しかし、家から作業所に通うということで生活のリズムや生きがいになっていること。また、在宅になれば、家族の特にお母さんの負担が大きくなり、その軽減にもなっている。作業所はとても大切なことを知らせる。
      授産所   
       通所のところが多い。作業所よりも大きく、クリーニングなど工場になっているところが多い。定員がいっぱいでまたなければばならい。
       例 13 社会福祉法人奈良社会福祉院働く広場高円
      成人施設
       親が亡くなったり、みれなくなった場合は、施設に入所して生活する。障害の重い人が多い。定員がいっぱいで、なかなか入いれない。
      グループホーム
       親から離れて共同で生活してながら仕事に通う。食事の用意をしてくれる方が夕食と朝食の準備をしてくれる。国から補助がある。親から自立して、親なき後も暮らしていける。成人施設よりも小規模で容易に開設でき、今後の福祉の主流になっていく。



      (2)障害児学級での取り組み

       養護学校高等部卒業後の進路を見通して、中学生のうちに次のような3ヶ所の作業所や施設の見学を実施した。


      6/27 ●麦塾福祉作業所見学 
            さをり織りとクッキー

       進路学習の一貫として高等部卒業後の働く場を実際に見学しょうと、 あやめ池(西大寺赤田町)の近くにある麦塾福祉作業所を生徒と見学してきた。画像右のような3階建で、2・3階はグループホームになっていて、作業所はもと喫茶店だった1階。現在塾生が10名、指導員5名。作業内容は、さをり織りと農耕・クッキーづくりなどをされている。画像左が登美ヶ丘中学校のみさわ学級の卒業生のO君(30才)がさをり織りをしているところ。織りの技術はプロ級。この布を使ってバッグやテーブルクロスなどの作品を作り販売。先輩ががんばっている様子が見られ良かった。大変勉強になった。

       

      11/26 ●コミュニティーワークこッからと奈良社会福祉院働く広場高円の作業所施設見学

       高等部卒業後を見通した進路学習として生徒(中3)と一緒に11/26(火)の午前中、奈良市古市町にある「コミュニティーワークこッから」と「奈良社会福祉院働く広場高円」の2ヶ所の施設見学に行って来た。「コミュニティーワークこッから」は、春日共同作業 所とのぞみの家共同作業所から発展して社会福祉法人になりこの3月にオープンした新しい知的障害者の働く施設。 定員30名。施設長はこの3月まで奈良市の小学校の障害児学級担任をされていた藤井正紀先生。パンづくりと喫茶店、紙すきとレーザー印刷、100円ショップ製品の袋詰め作業、アルミ缶回収など4つの班に分かれて仕事をしている。施設はオープンスペースで壁に板材を使ってありとても暖かい雰囲気でした。
       「奈良社会福祉院働く広場高円」は移転して5年目。ホテルのシーツやレストランの白衣などのクリーニング工場で60名の知的障害を持つ人たちが働いている。9年前の教え子がたくましく働いている姿に安心した。「高等部を卒業したらここで働こうかなあ」と生徒の感想もきかれ有意義な見学になった。



      3 取り組みの成果と課題

      ・通常学級の生徒に障害を持つ人たちの進路の大変さを知識として理解させるきっかけにはなったが、将来社会に出たときにどれだけ支えられるかは、まだまだ課題である。通常学級の生徒にも福祉体験などの実際の体験を通して弱い立場の人たちを支えるやさしさを培う取り組みが必要である。
      ・障害児学級生徒自身に、将来働くことを具体的にイメージさせることは出来たが、そのために中学生の時期にどのような力をつけることが大切かを明らかにする必要がある。
      ・将来にわたって支えていく保護者との連携が大切である。
      ・卒業生から実際に話を聞く機会をつくる。
      ・3学期にも、成人施設の見学として「あおはにの家」に行く。
      ・障害を持つ人たちの進路についての最新のビデオ教材を選定する必要がある。  例 アメリカのジョブコーチなどを紹介したビデオ教材等



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